1.はじめに
(ⅰ)持続可能な社会を実現するために、世界共通の目標(SGDs)の一つ、7 “エネルギーをみんなに そしてクリーンに” が掲げられた。
ここでの対象として捉えるエネルギーは、国としての安全保障や気候変動をはじめとする環境問題などとして、今日 改めて世界的なおおきな課題となってきている。
日本は90%以上の一次エネルギーを海外から輸入する化石燃料(天然ガス、石油など)に頼っていて、この化石燃料を使うと温室効果ガスの一つである二酸化炭素が発生します。
従って、燃焼しても二酸化炭素を発生しないクリーンなエネルギーとして「水素」が注目され、世界の目は、如何に安定的に「クリーン燃料=水素」を確保し、その利用の技術開発などが緊急の課題なってきている訳である。
(ⅱ)このように経済や社会活動などが停滞することなく、如何に「脱炭素化」に向けてソフトランディングしていくかが問われていて、持続可能な社会を実現していくためには、もう逆戻りは許されない。
そこで目標達成に向けて、次のように大きく3項目に分けて現状の認識と課題解決への一私見を述べたい。
(A)「ブルー水素」などからの展開について
(B)「バイオ燃料」から水素を生成する展開について
(C)「グリーン水素」への展開について
上記(A)、(B)、(C)は決して展開への順序を示すことではなく、概ね、(A)を展開していく間に(B)、(C)を同時展開していくことが必須であり、3項目共に待ったなしの取り組みをしていかなければならない。
2.「ブルー水素」などからの展開について
ⅰ)世界で流通する水素の99%は化石燃料から生成され、同時に多くの二酸化炭酸(CO2)を排出している、所謂「グレー水素」である。
そこで「脱炭素化時代」を見据えた産油国などでも水素戦略として「ブルー水素」への取り組みが進んでいるという。
所謂「ブルー水素」とは、化石燃料を水蒸気と化学反応させて水素を取り出し、二酸化炭素を地中などに貯蔵し、排出を抑えるものである。
このように次世代エネルギー源として有望視される「ブルー水素」の生産が各地で進んでいるとのことである。
ⅱ)しかしながら、ここで日本国内における現状での水素需要量からして、当面の間は如何にこの「ブルー水素」を安定的に確保していくことが肝要である。
ここで、大量の「ブルー水素」を輸入していくための、受入基地や貯槽設備の建設と共に多くの利用を見据えた水素パイプラインの敷設など「水素供給システム」の構築など必要なる。
これらに関しては、川崎市の「川崎水素戦略」にみられるように臨海部などに水素供給システム(大量貯蔵・輸送技術〜利用ネットワークまで)を取り組んでいくことが緊急な課題となっている。臨海部における世界初の商用火力発電所の整備や再生可能エネルギーで製造する水素の活用などへの取り組みをも含めて推進されるとのことである。
既に、川崎市とENEOSによる共同提案がNEDO事業に採択され川崎臨海部のパイプラインを利用した二酸化炭素フリーの水素供給モデルに関する調査を開始されている模様である。
更に、川崎市の車両センターで公開した試験車両:燃料電池車(水素電車)を3月下旬より神奈川県内で実証走行をはじめ、2030年の導入を目指すとのこと。(2月18日JR東日本公開)
3.「バイオ燃料」から水素を生成する展開について
(ⅰ)(A)「ブルー水素」からの展開を待つまでもなく、単発で比較的に中・小規模ではあるが「バイオ燃料」から生成された水素を燃料電池車などに利用していこうという取り組みである。
「バイオ燃料」からの展開としては、食品廃棄物や家畜排せつ物などを発酵させたバイオガスからメタンガスを取り出し、水蒸気などと反応させて水素を作るもので各地での取り組みに期待される。
最近の話題(新聞記事)として、某産業ガス大手と大手ゼネコンでの共同発表によると、酪農が盛んな北海道鹿追町のし尿処理施設内にあるプラントで、牛ふんから水素を作る。一日当たり約150Kgの水素を製造できるとして、これは某社の燃料電池車(FCV)の30台分に当たると言われている。
(ⅱ)本題から外れることではあるが数十年前から、下水処理場やし尿処理場などにおいては下水汚泥、し尿や生ごみを発酵してメタンガスし生成、そのメタンガスを燃焼して発電するという所は各地にみられる。
更に、発酵後に残った残渣は「バイオ燃料」としても活用されている。
これら「バイオ燃料」からの水素の生成や燃焼などにより二酸化炭素を発生するが、「カーボンニュートラル」として捉えられカーボンバランスが取れているものとの認識にたっている。
4.「グリーン水素」への展望について
(ⅰ)太陽光や風力などの再生可能エネルギーの電力で、水を電気分解して得られる水素、所
謂「グリーン水素」である。
この「グリーン水素」は、燃焼しても温暖化ガスである二酸化炭素を一切排出しないため、「究極のクリーンエネルギー」であるとして大きくクローズアップしてきている。
(ⅱ)そこで、再生可能エネルギー源として、太陽光、風力、地熱、水力などあるが、その立地条件として地形、周辺の気候や環境など多方面から検討された場所を探していく必要がある。
現段階では太陽光による電力が多く各地に見られるように有望視されているが、先日、太陽光発電の某計画に対して山林の環境破壊や土砂崩れの心配があるとして環境大臣より見直しが求められる事態になっているケースもあるので十分な事前での環境アセスメントが大切である。
一方、某 元首相によると、農地で米や野菜などを作りながら、上で太陽光パネルを置いて発電する「営農型太陽光発電」を提唱している。日本の全ての農地でやれば、今日本で使っている電力の2倍を発電することが可能で、再エネと農業のタイアップは可能性高井政策であるという。(2022年3月18日 朝日新聞)
この電力で水の電気分解により、特に地方各地にオンサイトタイプの「水素ステーション」の設置も可能となってくる。
当然、風力発電においても同様、環境変化への影響など十分な調査が求められ、同上のような計画が予想される。
(ⅲ)更に、再生可能エネルギーの電力で水の電気分解により得られた水素を利用する、則ち、オンサイトタイプの「水素ステーション」を設置していくことになるため、その設置場所付近の交通量や特に燃料電池車などのアクセスなども考慮したいところである。
(ⅳ)この水素製造の考え方は、「エネルギー媒体として、これらの再生可能エネルギーを貯蔵可能エネルギーである「水素」に変換して利用する」ということでもある。
充電が比較的簡便な電気自動車(EV)に対して、燃料自動車(FCV)は今後、多くの商用水素ステーションの設置と共に、今のところ走行距離も比較して長いことなどから増々の発展が期待される。
2022年3月16日
有限会社アクア環境テクノロジー
SEアドバイザー 山 崎 洋二